やま案内
平標山から仙ノ倉山・谷川岳と続く上越国境稜線は、標高は2,000m前後とそれほど高くありませんが、森林限界を迎える標高が低いため、ほかの地域と比べると比較的低いところで高山植物がみられるのが特徴です。また、中央分水嶺にあたり太平洋側の空気と日本海側の空気がぶつかり合い、天候の変化が激しく雲ができやすいため、視界良好な日がそれほど多くありません。けれどもその気候のおかげで豊富な雪と雨が降り、豊かな植物に恵まれます。
日本有数の豪雪地帯としても知られる上越国境の春は雪がたっぷり。近年では雪の少ない年もありますが、小屋のあたりで4m程積もります。そして雪が解け始めると花の季節が始まります。雪解けとともにオウレンやナエバキスミレ、アズマシャクナゲなどが咲き始め、6月になると平標山頂から仙ノ倉山方面へ少し下った斜面にあるお花畑では、ほかの地域よりひと足早く高山植物が咲きだします。ハクサンイチゲやハクサンコザクラ、チングルマなどの花が一面に広がります。6月といえば梅雨。お花の見ごろは梅雨時期と重なります。花の種類によっては日が当たらないと花が開かないものもありますが、雨が滴る花も、風に吹かれる花も、光あふれる花も、草や葉や樹もそのときどきでみな美しいです。そしてハクサンイチゲのお花畑が満開を過ぎる頃になると、青々しい葉の緑が一面に広がるようになります。その緑に埋もれるようにちょこちょこ咲く少し地味めな花々もまた愛おしく。
夏になるとニッコウキスゲやクルマユリなど力強さを感じる花が多くなり、緑もパワーを増します。7月下旬から8月頭にかけて松手山方面に咲くシモツケソウやハクサンフウロの斜面も見事です。お盆の頃までどこかしらで何かしらの花が咲いています。
お盆を過ぎると、山では秋の風が吹くようになります。秋の風が深まってくると草の色が変わり始め、草紅葉に。9月下旬頃より稜線では紅葉が始まり、笹原の中にツツジやモミジの赤が浮かびます。徐々に標高を下げてきて小屋の高さまで紅葉が下がってくるのが10月中旬頃。10月に入ると天候の悪い時には雪がちらつくことも出てきます。登山口あたりまで紅葉が下がってくる頃になると、小屋じまいとなります。
また、さまざまな植物や動物の暮らす平標山・仙ノ倉山一帯は上信越高原国立公園の特別保護地区内にあたります。自然公園の中で最も中心となる景観地であり、現状維持を原則とする地域です。木の伐採、植物の損傷・採取、たき火などは禁止されています。
一帯はツキノワグマの暮らす地域です。クマは大人になると25~100㎢をテリトリーに行動するとされており、クマの暮らす地域に、登山する私たちがお邪魔している格好になります。クマを見かけること、少し近くで遭遇することがあるかもしれません。(基本的な性質として、クマは積極的に人を襲う動物ではありません。人間より嗅覚・聴覚ともに優れているので、基本的にはクマの方から逃げてくれることがほとんどです。)